脳科学

19日目 記憶の宮殿が失敗する理由とは?脳科学で読み解く「覚える」と「使える」の決定的な違い

――歌川先生の特別授業――


■ 「丸暗記」は本当に無駄なのか?

ヒロユキ君
「先生、最近気づいたんです。
記憶というものは、単なる丸暗記から、道具として使える記憶、さらには深い理解へと進化する段階があるんだなって。
『当たり前』と言えばそうですが。」

ミエちゃん
「そんなの当たり前やん!今さら何言ってんの?」

歌川先生
「いや、分かっていないのはミエのほうだよ。
君は記憶法を真剣にやっていないだろう。」

ミエちゃん
「だって、暗記なんて意味がないんです。
偉い人にはそれが分からないんです。
丸暗記だけで進学できる社会だから、理解力のない若者が増えたってYouTubeでも言ってましたもん!」

歌川先生
「また動画を見ているのか! 似非(エセ)学者の言葉を真に受けている君こそ抜け作だ。
君の言い分も間違いではないが、『丸暗記=悪』と決めつけると、最初から学びを拒絶することになってしまうのだよ」


■ 「当たり前なのに誰も気づいていない本質」

歌川先生
「ヒロユキ君、どうしてそう気づいたんだい?」

ヒロユキ君
「英文記憶法をやっているときに、ふと思いました。
この文は、ただ覚える記憶と、日常で使える記憶とは異なるんだなと。
また、赤ちゃんは初めて聞いた言葉を録音して、
短期間で自分で使えるようになるんですから
この進化はすごい事なんだと。
普通、こんなことを言っても『当たり前やん』と言われるかもしれませんが(笑)」

歌川先生
「それは素晴らしい“気づき”ですね。これは、『覚える』と『使える』は別のプロセスという、学習の核心に触れる部分です。むしろ『当たり前』と思う人ほど、記憶を“使えるレベル”まで育てたことがないのです」

先生はそう言って、ミエちゃんをちらりと見ました。


■ 赤ちゃんと大人の大きな違い

ミエちゃん
「赤ちゃんが言葉を覚えるなんて当たり前じゃないですか?」

歌川先生
「では質問。
なぜ大人は英語を覚えても使えないのか?」

ミエちゃん
「それは周りが日本語しか使わないからです」

歌川先生
「環境は一つの要因だが、それだけが正解ではないよ。
実は、赤ちゃんが言語を覚えるときは、以下の4つが必ずセットになっているんだ」

そして黒板に書いた。

■ 赤ちゃんは言語を“以下のセット”で覚える

  • 文脈(どんな状況か)
  • 情動(楽しい、怖い、欲しいなどの感情)
  • 身体感覚(触れる、動く)
  • 人間関係(ママ、パパとのやりとり)

「大人の『丸暗記』はこれらが希薄なため、脳の表層的な記憶で止まってしまうのです。
実は、記憶には明確な“レベルの階段”が存在します」


■ 記憶には段階がある

先生は黒板に大きく書いた。

【記憶のレベル段階(全体像)】

① 感覚記憶(ただ入ってくるだけ)
② 作業記憶=ワーキングメモリ(丸覚えの入り口)
③ 短期記憶(すぐ忘れる仮置き) 
④ 長期記憶:表層的な記憶(“覚えた”状態)
 --- 《多くの大人の壁》 --- 
⑤ 長期記憶:構造化されたスキーマ(“使える”記憶) 
⑥ 自動化・無意識的アクセス(“自分の道具”)
⑦ 統合された深い記憶(“自分の思考そのもの”)

歌川先生

「有名な『記憶の宮殿』などのテクニックは、結局のところレベル④までの技術に過ぎません。多くの大人は『覚えたら(④)、使える(⑥)』と誤解していますが、その間には大きな隔たりがあります。」

記憶の宮殿は、ある意味では『短期的な暗記のズルい技』とも言えます。
覚えた瞬間は気持ちが良いですが、残念ながらそれが“使える記憶”へと進化することはありません。


■ チェスの例で見る「使える記憶」とは?

例えばチェスのポーン(歩兵)の動きを覚えただけなのがレベル④。
「この配置ならこう攻める」という戦術が見えているのがレベル⑤以上。
これが「記憶が道具として使える」状態です。

丸暗記:

  • ポーンの動き方
  • ルール

使える記憶:

  • pawn structure
  • passed pawn の価値
  • 前進しすぎるリスク
  • 戦略との結びつき

歌川先生 「しかし忘れてはいけないのは、
①から④までの丸暗記の段階が最初に絶対必要だということです。
最初は意味が分からなくても、脳に“種まき”をしなければ芽は出ません」


■ では、どうやって④→⑤→⑥へ進むのか?

では、どうすればレベル④の壁を越えられるのでしょうか?

歌川先生
「僕の経験でなんですが、趣味で為替取引(FX)をしています。
ルールは覚えたものの、やっぱり勝てない……と諦めそうになることがありました。
それでも毎日チャートを見続けたことで、以前は理解できなかった『利確と損切りの関係』や『待つことの意味』がある日ハッと見えるようになったんです」


■ 実践こそが④→⑦へ進む唯一の道

  • 記憶が“使える”のは、単純な記憶(②・③)が進化した瞬間
  • これはテクニックではなく、“継続と実践”によってしか生まれない
  • 脳は繰り返し触れた情報を《自動化》する
  • 使うほど、脳内の関連ネットワークが太くなる

これは英語、チェス、FX、執筆、仕事、筋トレ、どんな分野でも共通です。「使える記憶」は、続けた人にだけ見える景色なのです。


【実践編】覚えた英語を「道具」にする練習

最後に、外国に行かなくても出来る⁉英語の学び方について考えてみましょう!

仕事で使える英語シリーズとして、3つの例を挙げます。

Case 1:同僚への注意
【会社で使うカギはポケットに入れると紛失の原因になります。】

  • 前もってこのフレーズを暗記します: “Don’t put it in your pocket, sir.”(ポケットには入れるな)
  • イメージトレーニング: 同僚がうっかりポケットにカギを入れようとするシーンをリアルに想像してください。
    次に「Don’t put it in your pocket, sir.」と声に出して言います、続けて日本語の「ポケットに入れるな」を声に出します。
    この練習を一日に2~3回する。
  • 実践: 実際に誰かがカギをポケットに入れた瞬間、考えなくてもこの英語が口から出るようになります。同僚から「えっ、英語? かっけー!」と言われる日は近いです(笑)。

以下同様

Case 2:時間の感覚

お客さんから「何時に閉まるの?」と聞かれたとき。

  • 覚えるフレーズ: “Around dark, at dark.”(だいたい暗くなるころ)
  • 解説: “At 6 p.m.” と数字で答えるのも正解ですが、”At dark” と言うことで、「暗くなったら終わりだよ」という空の明るさや季節感(身体感覚)を含んだ返答ができます。

Case 3:上司への言い訳

上司から「これに何か意味があるんですか?(嫌味っぽく)」と聞かれたとき。

  • 覚えるフレーズ: “I didn’t mean nothing by it.”(特に他意はありません=悪気はないんです)
  • ここがポイント! 学校の教科書では、否定文には anything を使うと習います(I didn’t mean anything)。 しかし、実際の会話や映画の中では、あえて二重否定(didn’t + nothing)を使って、「いやいや、ほんとに何もないんだって!」という必死さや、ちょっとぶっきらぼうなニュアンスを出すことがあります。 あえてこの「崩した英語」を使うことで、教科書通りの丸暗記ではない、「生きた言葉(道具)」としての英語になります。

歌川先生
「こういう小さな一歩一歩が、
英語に慣れるための道になる。」


■ 最後のまとめ

最初は丸暗記でいい。むしろ必要。

使える記憶は、継続と実践の先にだけ現れる景色。

あなたが今覚えていることは、
いつかあなたの人生を変える“道具”になる。

その未来は、必ず来る。


18日目 アルムおんじのセリフから学ぶ『成長が止まる理由』

【アルプスの少女ハイジ】第50話 『立ってごらん』から
有名なおんじとクララのシーンを抜粋しました。

おんじ
「いくらやっても練習し始めの頃のように目に見えて進歩しない。
いや練習すればするほど立てないような気がしてくる。
こんなことをしてて本当に立てるようになるんだろうか……

クララ
おじいさん、どうしてそんなことが?

おんじ
はっはっはっ、
何を習ってもそういう時があるものだよ。
クララ、お前は本当にフランクフルトにかえりたいのか?
いやいや、クララがそんなことを考えるはずはない。
クララはそんな弱虫じゃない
クララは立ちたいんだ、立ちたいからこそ
なかなか思うようにいかなくて
泣いたり怒ったりするんだ。

解説

『アルムおんじ』が、
クララに『何を習ってもそういう時があるものだよ。』
と励ました、あの言葉。

🧠 科学的にも「停滞期」は自然な現象

成長や学習には必ず「伸びない時期」があります。
これは怠けや才能の問題ではなく、脳が内部で再構築をしている期間なんです。

① 神経科学でいう「プラトー(plateau)現象」

新しいスキルを学ぶとき、脳の神経回路が一時的に整理され、
 情報の再配線(リモデリング)が起きます。

その間、外から見ると「進歩が止まった」ように見える。

しかし実際は、“深く定着させる準備”をしている状態です。

🧩 例:ピアノ練習や筋トレで「最初は上達するのに、途中で全く伸びない」——あれが典型的なプラトーです。

② 心理学でいう「U字カーブ」や「中だるみ効果」

人は新しいことを始めると最初は高揚します。

しかし中盤に差し掛かると、モチベーションが一度落ちる。

これは
『成果がすぐ見えない』+『脳が慣れて刺激が減る』
ため。

この谷を超えると、安定的な継続ができる「習慣フェーズ」に入ります。

つまり、「伸び悩み」は失敗ではなく、習慣化の通過点なんです。

③ 学習曲線でも証明されている

多くの研究で、「上達=階段状」で進むことがわかっています。

成長は“右肩上がりの直線”ではなく、“螺旋状の上昇”です。

🏔️ つまり、「アルムおんじ」の言葉の真意

「なかなか先へ進めないと感じる時期」は、
実は“成長が地中で進んでいる時期”。

外から見えないだけで、
内側では確実に「次の段階へ向かう準備」が起きています。

なかなか先へ進めないと感じる時期。
それは止まっているのではなく、
次に進むための“脳の準備期間”。

アルムおんじが言っていたように、
どんなことでもそういう時期がある。
焦らず、土の中で根を張ろう。