――歌川先生の特別授業――

■ 「丸暗記」は本当に無駄なのか?
ヒロユキ君
「先生、最近気づいたんです。
記憶というものは、単なる丸暗記から、道具として使える記憶、さらには深い理解へと進化する段階があるんだなって。
『当たり前』と言えばそうですが。」
ミエちゃん
「そんなの当たり前やん!今さら何言ってんの?」
歌川先生
「いや、分かっていないのはミエのほうだよ。
君は記憶法を真剣にやっていないだろう。」
ミエちゃん
「だって、暗記なんて意味がないんです。
偉い人にはそれが分からないんです。
丸暗記だけで進学できる社会だから、理解力のない若者が増えたってYouTubeでも言ってましたもん!」
歌川先生
「また動画を見ているのか! 似非(エセ)学者の言葉を真に受けている君こそ抜け作だ。
君の言い分も間違いではないが、『丸暗記=悪』と決めつけると、最初から学びを拒絶することになってしまうのだよ」

■ 「当たり前なのに誰も気づいていない本質」
歌川先生
「ヒロユキ君、どうしてそう気づいたんだい?」
ヒロユキ君
「英文記憶法をやっているときに、ふと思いました。
この文は、ただ覚える記憶と、日常で使える記憶とは異なるんだなと。
また、赤ちゃんは初めて聞いた言葉を録音して、
短期間で自分で使えるようになるんですから
この進化はすごい事なんだと。
普通、こんなことを言っても『当たり前やん』と言われるかもしれませんが(笑)」
歌川先生
「それは素晴らしい“気づき”ですね。これは、『覚える』と『使える』は別のプロセスという、学習の核心に触れる部分です。むしろ『当たり前』と思う人ほど、記憶を“使えるレベル”まで育てたことがないのです」
先生はそう言って、ミエちゃんをちらりと見ました。
■ 赤ちゃんと大人の大きな違い
ミエちゃん
「赤ちゃんが言葉を覚えるなんて当たり前じゃないですか?」
歌川先生
「では質問。
なぜ大人は英語を覚えても使えないのか?」
ミエちゃん
「それは周りが日本語しか使わないからです」
歌川先生
「環境は一つの要因だが、それだけが正解ではないよ。
実は、赤ちゃんが言語を覚えるときは、以下の4つが必ずセットになっているんだ」
そして黒板に書いた。
■ 赤ちゃんは言語を“以下のセット”で覚える
- 文脈(どんな状況か)
- 情動(楽しい、怖い、欲しいなどの感情)
- 身体感覚(触れる、動く)
- 人間関係(ママ、パパとのやりとり)
「大人の『丸暗記』はこれらが希薄なため、脳の表層的な記憶で止まってしまうのです。
実は、記憶には明確な“レベルの階段”が存在します」
■ 記憶には段階がある
先生は黒板に大きく書いた。
【記憶のレベル段階(全体像)】
① 感覚記憶(ただ入ってくるだけ)
② 作業記憶=ワーキングメモリ(丸覚えの入り口)
③ 短期記憶(すぐ忘れる仮置き)
④ 長期記憶:表層的な記憶(“覚えた”状態)
--- 《多くの大人の壁》 ---
⑤ 長期記憶:構造化されたスキーマ(“使える”記憶)
⑥ 自動化・無意識的アクセス(“自分の道具”)
⑦ 統合された深い記憶(“自分の思考そのもの”)
歌川先生
「有名な『記憶の宮殿』などのテクニックは、結局のところレベル④までの技術に過ぎません。多くの大人は『覚えたら(④)、使える(⑥)』と誤解していますが、その間には大きな隔たりがあります。」
記憶の宮殿は、ある意味では『短期的な暗記のズルい技』とも言えます。
覚えた瞬間は気持ちが良いですが、残念ながらそれが“使える記憶”へと進化することはありません。
■ チェスの例で見る「使える記憶」とは?
例えばチェスのポーン(歩兵)の動きを覚えただけなのがレベル④。
「この配置ならこう攻める」という戦術が見えているのがレベル⑤以上。
これが「記憶が道具として使える」状態です。
丸暗記:
- ポーンの動き方
- ルール
使える記憶:
- pawn structure
- passed pawn の価値
- 前進しすぎるリスク
- 戦略との結びつき
歌川先生 「しかし忘れてはいけないのは、
①から④までの丸暗記の段階が最初に絶対必要だということです。
最初は意味が分からなくても、脳に“種まき”をしなければ芽は出ません」
■ では、どうやって④→⑤→⑥へ進むのか?
では、どうすればレベル④の壁を越えられるのでしょうか?
歌川先生
「僕の経験でなんですが、趣味で為替取引(FX)をしています。
ルールは覚えたものの、やっぱり勝てない……と諦めそうになることがありました。
それでも毎日チャートを見続けたことで、以前は理解できなかった『利確と損切りの関係』や『待つことの意味』がある日ハッと見えるようになったんです」
■ 実践こそが④→⑦へ進む唯一の道
- 記憶が“使える”のは、単純な記憶(②・③)が進化した瞬間
- これはテクニックではなく、“継続と実践”によってしか生まれない
- 脳は繰り返し触れた情報を《自動化》する
- 使うほど、脳内の関連ネットワークが太くなる
これは英語、チェス、FX、執筆、仕事、筋トレ、どんな分野でも共通です。「使える記憶」は、続けた人にだけ見える景色なのです。
【実践編】覚えた英語を「道具」にする練習
最後に、外国に行かなくても出来る⁉英語の学び方について考えてみましょう!
仕事で使える英語シリーズとして、3つの例を挙げます。
Case 1:同僚への注意
【会社で使うカギはポケットに入れると紛失の原因になります。】
- 前もってこのフレーズを暗記します: “Don’t put it in your pocket, sir.”(ポケットには入れるな)
- イメージトレーニング: 同僚がうっかりポケットにカギを入れようとするシーンをリアルに想像してください。
次に「Don’t put it in your pocket, sir.」と声に出して言います、続けて日本語の「ポケットに入れるな」を声に出します。
この練習を一日に2~3回する。 - 実践: 実際に誰かがカギをポケットに入れた瞬間、考えなくてもこの英語が口から出るようになります。同僚から「えっ、英語? かっけー!」と言われる日は近いです(笑)。
以下同様
Case 2:時間の感覚
お客さんから「何時に閉まるの?」と聞かれたとき。
- 覚えるフレーズ: “Around dark, at dark.”(だいたい暗くなるころ)
- 解説: “At 6 p.m.” と数字で答えるのも正解ですが、”At dark” と言うことで、「暗くなったら終わりだよ」という空の明るさや季節感(身体感覚)を含んだ返答ができます。
Case 3:上司への言い訳
上司から「これに何か意味があるんですか?(嫌味っぽく)」と聞かれたとき。
- 覚えるフレーズ: “I didn’t mean nothing by it.”(特に他意はありません=悪気はないんです)
- ここがポイント! 学校の教科書では、否定文には
anythingを使うと習います(I didn’t mean anything…)。 しかし、実際の会話や映画の中では、あえて二重否定(didn’t + nothing)を使って、「いやいや、ほんとに何もないんだって!」という必死さや、ちょっとぶっきらぼうなニュアンスを出すことがあります。 あえてこの「崩した英語」を使うことで、教科書通りの丸暗記ではない、「生きた言葉(道具)」としての英語になります。
歌川先生
「こういう小さな一歩一歩が、
英語に慣れるための道になる。」
■ 最後のまとめ
最初は丸暗記でいい。むしろ必要。
使える記憶は、継続と実践の先にだけ現れる景色。
あなたが今覚えていることは、
いつかあなたの人生を変える“道具”になる。
その未来は、必ず来る。







