
適当なのに勉強はパーフェクトだった父親の洋と、
生意気で憎たらしい盛の娘(音)と母のアッキを通じて。
今回は、新しい習慣を始める際の心理に迫ります。
第一部
音ちゃんは日ペンの稽古を始める決意をしました。
(音は字が汚い、絵も謎レベル)
教材も購入し、いつでも始められる状態なのに、自分の好きな虫の観察に夢中で放置しています。
それを見たママのアッキ(亜希)は言いました。
「日ペンの練習を始めるんじゃなかったの?」
音はこう返します。
「絶対に明日からやるんだもん!」
アッキ「そんなこと言っていたら!先延ばしになっちゃうじゃないの?」
その時、洋(父親)が口を出しました。
「明日やるというのは、単なる先延ばしではなく、自己防衛本能なのだよ。」
えっ、それは本当なの?
「専門的に言うと、人は自分を有能な存在でいたいと願っている。
心理学では自己価値維持、つまり self-worth protection というんだ。」

洋の解説 1
行動を始めたら…
- 出来なかった
- 続かなかった
- 自分の弱さが見えてしまった
などの結果が残酷に見せつけられてしまうだろう、そうなると
『自分は凹んでしまうかもしれない……。』
と意識する。
そのため、脳は無意識に判断します。
- 「やらなければ失敗はしない」
- 「明日やることにすれば一時的に安全策」
これが心の保険の正体です(しかも保険料は不要)。
洋は続けます。
「つまり、先延ばしは怠けではなく、自分という評価対象を守ろうとする高度な自己防衛でもあるのだよ。」
音「そうだよ、えっへん!」
洋の解説 2
又は、先延ばしを支えるのは「期待価値理論」です。
行動経済学では、人は行動する前に無意識に「期待値の計算」を行うと言われています。
行動の期待値は次のように計算されます:
得られる報酬(スキル)× 成功確率(約40%)− 失敗時の損失(かかった時間や努力が無駄になる)= 期待できる最終的な価値(始めないほうが良いかもしれないという予感)
この式において、先延ばしする人の脳は、
成功確率を低く見積もり、失敗の損失を過大評価し、今動くことの価値を低く判断します。
このため、「今はやめておこう」が合理的に感じられますが、実際には非合理なのです。
心の中では密かに計算が行われ、その結果「明日やることが正しい判断だ」と思ってしまいます。
ニヤリと笑う父親。
音「アタシはそんなことないんだもんっ!」

洋の解説 3
実は未来への幻想も大きな要因です。
心理学では「時間的不一致」という概念があります。
人は未来の自分が今の自分より優秀だと信じているのです。
あなたは否定できますか?
明日の自分なら集中できる
明日の自分ならやっている
明日の自分は心構えが違うはず
これらは幻想に過ぎません。脳にとっては強力で魅力的な逃避方法です。
したがって、「明日の自分なら失敗しないし、安心だ」という未来への丸投げが心の保険として契約されているのです。
音「もちろん明日のアタシは今日よりも勝っている!」
洋の解説 4
神経科学的に言うと、先延ばしは扁桃体の恐怖や不安感と、前頭新皮質(意思決定や長期的判断)の間で起こる綱引きによって生じます。
扁桃体が「失敗したらどうしよう」と考えると、前頭新皮質はその不安を和らげるために
「今日はやめよう。明日で十分」
と判断してしまいます。この脳の強い働きに逆らうことは元々難しいのです。
音「それでもアタシは絶対に明日やるんだもん!」
第一部まとめ
「明日からやろう」は怠けではなく、自分を守るための心の保険だったのですね。
しかしながら、この心の保険は一時的には守ってくれたものの、長い目で見るとあなたの成長の機会を奪う心地よい保証だったのかもしれません。

第二部
音は父親に言いました。
「それでも、ちゃんと宣言通りに明日から始めたら問題ないやんか!」
洋は言います。
「そこで大切なことを見落としているよ!実は今日か明日は同じ一回でも、価値が違う。どっちにするかで成長の差が明確に違うんだよ。」
音「なんでなの、何で違うの?」
「行動の価値は単体の回数ではなく、連続性で決まる。」
洋の解説 1
脳は行動が連続したときに初めて神経回路を強化します。
これはヘッブの法則(Hebbian learning)と呼ばれる有名な原理で、
「いっしょに働く細胞は繋がりやすくなる」と言われています。
つまり、今日やった行動と明日やる行動が連続した瞬間に脳は学習を加速させるのです。
今日何もしなかったら、明日の一回目は孤立した行動になります。
音(ちんぷんかんぷん)

洋の解説 2
だから、明日一回目をやるよりも明日二回目をやる方が圧倒的に伸びるというわけです。
脳科学では、二回目の行動の方が神経結合の強化が大きいことが知られています。
簡単に言うと、昨日の活動の痕跡がまだ脳内に残っているので、神経がプライミング状態に入っているのです。
したがって、
今日やる → 明日の二回目がブーストされた学習になる
今日やらない → 明日やるのはゼロからの立ち上げになる
数字上では一回ですが、脳の内部では別物になります。
音「明日やって翌日もやれば結局は同じじゃないの?」
『それは、今日という機会を消滅させるということ。』
洋の解説 3
では、今日を逃すとどうなるか説明しましょう。
- 神経回路の成長率が落ちる
- 明日のパフォーマンスが落ちる
- さらに翌日もやる気が出にくくなる
という連鎖的な低下が起こります。結果として、単に一回分失っただけではなく、成長率そのものを低下させるという大きな損失になるのです。
アッキ「ちょっと音には難しすぎるんじゃないかしら?」
音(ムムム、なんだかよく分からないけれど、分かったことにしよう)
洋「生意気な盛りには難しい話をして凹ますのが僕の楽しみなのさ。」

今回のまとめ
「明日からやろう」これは誰もが経験しているのではないでしょうか?
時間がないですか?
では、1分だけ、開くだけでいいのでやってみてください。
これだけで今日がロケットの発射になるのです。
ですが、やっぱりやらなかったら?
その明日は、今日の一回を失っている明日になるのです。
おしまい。

















