第7話
1日遅れで白井と清水の2人は現在、空港にいます。
清水
「例のものは大丈夫だろうな。」
ハイ、用意しております。
保安検査場を通過して、白井は確認しました。
今回の白井にとっての渡航目的は、佐藤館長の捜索及び田中らの追跡です。
そのためには身を守るためのアイテムが必要です。
日本では特に問題のないものですが、海外の検査場で引っかかってしまうと面倒です。
搭乗ゲートを通り飛行機に乗り込みました。
田中らとは、使っている便も経由地も違うため、かかる時間は異なります。料金も高く時間も短い。
予定では数時間違いでカナイマ国立公園に到着の予定ですが、そのためには何としても順調に空港を出なければなりません。
そしてついにカラカスに到着。保安検査場では特に金属の反応はありません。
牧師服と銀のロザリオを身につけた二人は、白井の目論見通り、敬虔な牧師のように見えただろうか。
事前に某所から用意させたメッセージカードから1枚を選び、それを見せます。
カードには『私たちは、日本の牧師です。この度、日本人死者の慰霊のためにやってきました』と書かれています。
係員がカバンを指摘します。
清水が開けると、中には本が一冊とその他細々した物が入っています。
しかし彼は見逃しません、隅にあった巾着袋を取り出し、中からガラス玉を出しました。
『これは何か。』
こんな事も想定してのカードです。
『これは日本の伝統的な玩具です。』
白井と清水は実演してみせました。「ほい」と転がしてカチンと当てる。
当てたビー玉をゲット、清水もやりました。「コロコロカチン。」
さらにカードを一枚出した。
『こうして小さな球を転がし、別の玉に当てて取るあそびなんですよ。』
『オー!ワンダフル』
検査官もやってみた「コロコロカチン」「Funny!」
「ナイスジャパニーズ玩具。」
検査官も納得してくれた」ようでした。
我々は無事に空港を通過できました。
田中たち
無事にカナイマ国立公園へ到着した田中たち。
田中達も一時は保安検査で、仕事用の道具を指摘され戸惑いましたが、歌川さんの通訳により事なきを得ました。
ここまで時間のかかるフライトだったので、さすがにクラクラしましたが、僕が皆を守らねばならないのだ、田中はそう誓います。
現地でガイドをしてくれるペモン族のマンダさんと挨拶します。
歌川
「ヨイユカン、チンチオ。よろしくお願いします。」
現地の人と話せるなんて、引き出しの多い人だと、田中君は歌川さんにより一層の尊敬と憧れを感じました。
さあ、いよいよジャングルに突入です。
と言っても、ただやみくもに進むわけではありません。今回の移動ルートはすでに決まっています。
その予定地図をガイドの方に渡して、予定の範囲内を回ってもらうのです。
ホエザル
日中のジャングルは獣の咆哮のような音が響きます。これはホエザルの雄叫びによるものです。
田中は極力先頭に立つようにしました。危険な蜂や蜘蛛、サソリなどをいち早く察知して排除に努めました。
ジャングルは熱帯雨林であり、木々の樹冠は高く生い茂り、地面に太陽の光はあまり届きません。
そのため、湿度は高く草木は生い茂り、足元は不安定です。
ただ移動するだけでも困難な環境です。
夜はカエルとスズムシの合唱が響きます。
朝はベニコンゴウインコとオオハシの鳴き声がこだまします。このように圧倒的な生命力に満ちているジャングルです。
そして、その中で歌川さんの虫に対する好奇心と生き生きとした姿勢に皆も元気をもらいました。
その頃白井一行
田中たちとは10時間ほど遅れてカナイマ国立公園に到着した白井一行。探検用の服に着替え、かねてより準備していた装備の確認をします。
分厚い聖典は中身がくり抜かれており、樹脂製の本体が埋め込まれています。服の生地の中からゴムを取り出します。
そう、当たり、スリングショットです。清水はこれの名人です。
弾はできればスチールか鉛が良いことは言うまでもありませんが、先ほどもご説明した通り、持ち込むのは困難です。
そして、これからの予定ですが、事前に手配していたヤノマミ族の方にガイドをしてもらおうと思います。
ルートは事前にまこから入手していた物があります。これを渡して案内してもらうだけです。
白井「ここまで予定通りだな」
しばらく進んで、人が停滞した痕跡を見つけました。
「どうやら最近ここを通過したようですね」
「ああ、そのようだ。」
田中の実力は白井も分かっていましたが、ここはまさに強いものが生き残る世界です。
やつがどこまで奮闘できるか。
そして、田中のグループにジャングルの試練が迫っていました!
ガイドのペモン族のマンダさんが歌川に伝えました。
『スコールが来ると言っています。』
えっ!噂には聞いていましたが、ついに来たか。
できるだけ広い所へ出るんだ!
シンジッ、荷物に防水シートをかけろっ流されないようにするんだぞ!
雪江と歌川さんはレインウェアを身につけるんだ、遅れたら命取りだぞ。
降り出した!まさに濁流の恐怖です。
耐えること数分。
止んだ?ウソみたいにまた晴れました。その極端な激しさは、日本のにわか雨とは比較になりません。
雪江、大丈夫か?
服が濡れてしまいました。
歌川さんも濡れていました。ジャングルでの服の濡れは低体温症を引き起こす、想像以上に危険な状態です。
私とシンジで簡易テントを張ります。
中で二人には着替えてもらうためです。それにしても中ではどんな状態になっているのか『見たい』しかし、こらえるのだ田中。
2人は着替え終わり、我々も着替えました。こんな時は、暫くは動くのを待った方が良いでしょう。
白井一行も同じようにスコールの洗礼を受けた後でした。荷物は特製の防水ケースに収納していたこともあり、中身は無事でした。
2人は着替えることにしました。
会長が下着になった時、背後に怪しい影が…
会長、動かないでください。
何、まさか…
そのまさかがいました。
『僕はワニのカイマン』
『今、新しい沼地探しのために移動中なんだ。』
『アレッ、こんな所に人間だぞ。』
『フフフ、脅かしてやるか。』
清水のショットがカイマンの頭部に命中。2発、3発。
『キャッ、痛いっ。』
しかしながら大型の爬虫類。スリングショット程度ではたいしたダメージを与えられないようです。
万事休すかと思われたとき、一縷の僥倖が…
『クソ、前が見えないぜー。』
清水のショットがカイマンの目に命中したらしく、奴は周りが見えてないようでした。
ヨシ。今のうちに退散だ。
一時はどうなることかと思いました。
田中達の一行は野営の準備をします。
ジャングルの毒ヘビは夜行性です。絶対に夜は行動しないように、皆に注意を促します。
5日目の朝
そうして、ついに5日が経ちました。
幸いにもここまで病気、毒、怪我も無くやってこれました。
残りの日数もこの調子で無事に過ごしましょう。
さて、前進しようと試みた時、雪江が『待って』と制止します。
どうしたの?
『罠がある。』
何だって?
ほらそこ、よく見るとロープが張ってありました。
これに足をかけて前に転倒すると、地面に設置してあるナイフに串刺しになります。
さらにこれをなんとかかわしても、頭上からナイフが落下するようです。
ぞ〜
いったい誰が何のためにこんな物を…
歌川さん
「きっとグリーンベレーだよ。」
シンジ
「映画ランボーのことを言ってるんじゃないかな。」ヒソヒソ。
ガイドのマンダさんが教えてくれました。
『このナイフは、ここに古くから住んでいるニポ族のものですよ。
もしかしたらここから先の進入を拒んでいるのかもしれません。』
歌川
『だそうです。』
ということは、佐藤館長の失踪の秘密ももしかしたら関わっているかもしれません。
もしここで後退したら秘密には迫れないでしょう。
雪江、お前は何故罠があることが分かった?
なんとなく、そこに人の手が加わっているように感じたからです。
「ふーん、そうか。ではこの先の罠発見も頼むことにするよ。」
田中自身、雪江の隠れた一面を見て動揺を感じていました。ただの勘と言っていましたが、誰も気が付かなかったのです。
田中の危惧は当たっていました。雪江は田中と出会う以前に、紛争地域で工作活動に従事していた経験がありました。
彼女の身体能力は平均的ですが、火器の取り扱いも経験済みで、ある程度の物理的負荷に適応可能でした。
他者への強い配慮と共感傾向があり、それゆえに対人制圧や武力行使を伴う場面では動揺のリスクが高く、戦力評価外とされ、主に奉仕活動に重視されました。
そのように紛争地域にいた経験から、他の人が気づかないような罠や変化にも敏感に感じることができたのかもしれません。
それ以降は、雪江さんの罠発見により一歩一歩前進しました。
その頃白井一行
うむ、どうやらここに留まったようですね。
まだ比較的新しい痕跡のようです。
「清水君、先に行って。」
ハイ、そして、一歩踏み出した。
その瞬間ロープに脚をかけました。何だっ?前につんのめる…
ナイフ!
バランスを崩しながらも大地を蹴って少し先へ着地しました。
上からナイフが数本落下してきました。
ぞ〜
彼ほどの身体能力があって初めて、かわすことのできるトラップです。
何故かここにこのようなトラップがあるのか?
そして何故田中の一行はトラップをスルーできたのか、白井たちには謎が深まりますが、少なくとも注意して進まなければなりません。
田中の一行は最初は罠を放置していましたが、後から通る人のためにことごとく解除していきました。
そうして、7日目の夜事件が起きました。
キャア!雪江のテントで悲鳴が!
どうした!
テントを開けると蜂がいます。
すぐに追い出しました。なぜ蜂がテントの中にいたのでしょうか。
自然に入るわけがない。何者かが入れたのか?我々が警告を無視したから?
しかし今はそんなことよりも雪江が危険です。
彼女はハチ毒アレルギーなのです。
『静かにしてっ。』歌川さんがじっと雪江さんを見ていました。
上唇を刺されています。
何だって!
歌川さんの口が雪江の口を覆いました。
歌川さん、雪江が助かるならマウスツーマウスだろうと構わない。
頼みますぞ。そう思いつつも、シンジも田中も女性同士のマウスツーマウスに内心興奮していました。
朝が来ました。外でずっと監視していた2人は歌川さんに尋ねました。
「状態はどうですか。」
雪江はもう普通に意識がありました。「お前良かったっ、奇跡だ。」
歌川さんに感謝しました。
ただし、助かったのはいいものの、それ以降2人の関係がやや気がかりなものになるのだった。
8日目
ついに見つけましたぞ。ジャングルのやや開けた場所に到達しました。
おそらくはニポ族の集落と思われます。
ここは地上からでは発見するのが困難な場所です。
地元の人間にしかわからない地域なのだろう。
『ここで、最も権力のある人とコンタクトを取りたい。』歌川、ガイドのマンダ君に伝えます。
ガイドのマンダ君が伝えに行った後、老人が表れました。部族の長老のようです。
老人は聞きます。『お前たちは何ゆえにここへ来たのだ?』
歌川が直接回答します。『私たちは失踪した日本人を探してここまで来ました。
何か手がかりがあれば教えてください。』
長老は言います。
『実は一人の男をこの村で拘束している。お前達が探している人物かもしれんぞ。』
歌川は皆に伝えました。
「それは本当なんですか!ぜひとも会わせてください。」
『いいだろう、来るのじゃ。』
中央の大きな家に通されました。
部屋の奥で柱に両手を縛られた男が座っていました。
長い事拘束されていたせいか、少し精神に異常が見られるようでしたが、確かに佐藤館長でした。
ついに見つけましたぞ。
歌川さん、佐藤館長を連れて帰りたい、説得してくれないか。
yes sir
『長老さん、あの方にも家族や友人がいます。帰りを待ってる人がいます。どうか解放を願います。』
長老
『それは出来ない、勘違いするな、お前達をここへ通したのは、ここまでこれたことに対する敬意を表してのことだ。』
『この男はこの地にいる固有の生き物たちを不法なルートで海外に送っていた、その罪は重い、彼は我々の裁きにより無期限の拘束刑だ。』
歌川
『だそうです。』
何ということだ、困ったプー。
『わが国で裁きを受けさせます。なにとぞ私たちにお任せ願えませんか。』
ダメ、ダメなものはダメ。
全く首を縦に振りそうにありません。
打つ手無しか⋯
その時、ガイドのマンダ君があるヒントをくれました。
ニポ族は正直であり、約束を重んじる部族です。何か大きな決め事の際は、部族の代表で勝負をして、勝った方に決定権を与えることもあるのです。
「それでは勝負に勝てば、いいんですね!」
しかし、ニボ族の戦士は強いですよ。
歌川は伝えました。彼らの戦士と戦って勝てば、佐藤館長は返してくれるかもしれません。
「田中っ、やってくれるか?」
英雄だかストロングだか知らないが、田中ならできる。ケチョンケチョンにやっつけちゃってよ。
歌川さんは、長老に既に戦闘の意思を伝えています。
長老
「いいだろう、お前らが勝てば、ウチラはこの男を差し出す。」
「ウチが勝った場合は女性を一人もらおう。」
歌川
「もしかして私ですかっ!」
長老
『ノーノー、雪江を指さしていました。』
歌川は少し不満でした。
この絶望とも言える状況。部族の英雄と戦って勝てるわけがありません。骨の2,3本折られるでしょう。
その上、雪江まで取られてしまったら、何一ついいことがありません。
どうしてこうなったんだ。
だとしても、やるしかありません。
田中は、死を覚悟して立ち上がりました。
その時、ようやくたどり着いたのか白井たちがここに到着しました。
皆驚きました。白井会長、なぜここに?
「実は我々は、佐藤館長を独自で捜索していたのだ。君たちこそここで、何をしている?」
歌川がすべて説明しました。
私たちも佐藤館長を探していたこと、ようやくここに来て見つけることができた。
ただし、彼らの戦士と戦って勝たなければ佐藤館長は戻らないことを伝えました。
納得した白井は歌川に伝えました。
「ヨシ。オレがやろう。」
戦いの条件を決めてほしい。
武器は一切使わないこと、脚は使わないこと、パンチだけの勝負で受けてくれと伝えろ。
歌川はそれを長老に伝えました。
長老はしばし考えていましたが、自ら英雄へ伝えに行きました。
長老は言いました。「今日、われわれの英雄は記念すべき誕生日である。
そのため、特別にその申し出を受けると言っている」
ワー!やった!
田中は白井さんに声をかけました。「白井さん、あなたは一体。」
「お前がやるよりはマシさ。」
清水、バンテージを巻いてくれ。
こぶしに巻き付ける清水。
「私が審判を務めましょう。」マンダ君が引き受けてくれました。
英雄が登場しました。なんと身長は185センチはありそうです。
田中でも178センチ、白井会長は175センチです。対峙すると明らかな身長差を感じます。
『始めっ!』審判により開始が宣告されました。
ここにはリングもなくカウントを図るタイムもありません。倒すか倒されるか、それだけです。
白井は左ジャブを出しますが、後方にかわします。速い。
こいつはただの力自慢じゃあないようだ。
英雄は左と右のラッシュを繰り出します。白井はすんぜで切り抜けましたが、左手にパンチを受けてしまいました。
クソ、左が痺れるぞ。この試合では左はもう使えない。
右のワンチャンスに懸けるしかない。
英雄
「いいぞ、お前の左はもう使えない。」
『次の、右を出したときお前に死を与えてやろう。』
英雄はそれを読み渾身の右を放った。白井の体は、考えるより先に動いていた。
それは経験からくる直感がそうさせた。
右のパンチを繰り出す寸前で不発に終わらせる。英雄の剛腕は白井の耳を切り、わずかな隙が生まれた。
その瞬間白井はすべてを込めた右を叩き込んだ
皆の目には英雄の身体が一瞬飛んだように見えたかもしれない。
ワー!
歌川勢からの大歓声です。
清水
「会長お見事です。」
『久しぶりに無理しすぎた、は早く腕の治療をタノム。』
部族の英雄は10分ほど立てませんでした。文句なしの勝利です。
白井会長は本物のボクサーだったんだと、今さらながら感じざるを得ませんでした。
そうして、我々は約束通り佐藤館長を渡してもらい、彼を連れて帰路につきました。
白井会長の一行はというと、せっかくだからカジノで遊んで帰るとのことで、引き続き滞在した模様です。
我々は佐藤館長の発見という大偉業を成し遂げ、日本に戻りました。
帰国後、佐藤館長の脳波を調べたところ、かなりの衝撃を受けたと思われる痕跡があり、
普通の人と比べると重度の脳障害があるとされ、現在は医療刑務所で治療中となっています。
そして、会長たちはバカラを楽しみ、優雅に遊んでいるところでした。
治安が世界一悪いと言われる街で、現金を持ち、ストリートフードで飲食していても、この2人から金を取ろうなんて考えるものはいないでしょう。
『オー!ジャパニーズマフィア!』
なんだか物騒な呼ばれ方をしていますが、会長は気にしていない様子でした。
そこへ、ボロボロの身なりをした一人の男が現れました。
『あんたたち、日本人だな。』
白井はすぐに察しました。この男は身なりこそボロですが、ただ者ではなさそうです。
「お前は誰だ。」
「俺は、歌川という。」
あんた達は?
「私は白井だ」「僕は清水です。」
実はお願いがあるんだがね、日本に戻りたいんだ。
白井
「それで?」
金を貸して欲しい。
お前が返せなかったらどうする?
私には娘がいる、しかも学者だ。心配ない、私が返せなくても娘が返してくれる。
いざというときは息子も返してくれるさ。
(歌川、と聞いてもしかしたら、と思ったが、コイツはどうやら本当の父親らしいな。)
「いいだろう。貸してやる。ここにあんたと娘の名前を書いてくれ。」
なんのためらいもなくスラスラと記入しました。
彼に現金で一万ドル貸してやりました。
「これでようやく国に帰れるよ、助かったぜ。」
「そうかい、早く帰って娘に甘えさせてやんな。」
「ああ、そうするよ。」
そして、彼は去っていきました。
清水
『奴は国に帰るでしょうか?』
サアな、まあいずれにしても我々は、利息をつけてキッチリ返してもらうだけだ。
七話終了