
[壁の傷:ⅰⅱⅲⅳⅴⅵⅶ ⅷ ⅸⅹⅺⅻⅰⅱⅲⅳⅴⅵ ⅶ ⅷ ⅸⅹⅺⅻ ⅰⅱⅲ]
- 漆黒の静寂
M2――『ましろ』は、長い爪に紫色の塗料を施していた。その色は光を吸い込むように、まるで深淵の入り口のようだ。スマートフォンの画面では、コメディ風の宝鐘マリンがケツバットを受けて謝り続けている。「……ターゲットの調査に妥協は許さない」彼は標的(ターゲット)の「動き」を分析し続けていた。
- 重圧のチェス盤
S.M(シズコ)の部屋は、屋敷の二階の突き当たりに位置している。「……あら、あなた。まだこんなところにいたの?」シズコの視線が突き刺さる。ましろが「えっと前金を少し、ね」と不敵に笑った瞬間、室内の空気が鉄のように重くなる。「出してやれ」和装の男・ひろしが音もなく駒を進める。瞬きする間に戦局が書き換えられる。「あっ、ひろしさん…」ましろはドキドキしながら、差し出された巾着を手に廊下を引き返した。
「次のコマはM4だ」
- 暖簾(のれん)を斬る剣
行く手を阻むのは、赤い襷をかけた女武者――M4・『ミク』。「期待しているよ、コスプレさん」ましろが「新しい調理係さんですか?」と問い返した瞬間、ミクの刀が閃いた。一閃。ましろの横腹は両断された――ように見えた。しかし、手応えは「暖簾を斬った」ような虚無感だけ。ましろは何事もなかったかのように歩み去る。「……ムッ!」ミクは自身の袖が裂け、肘に刻まれたわずかな爪痕に、低く呻いた。
- 凍り付いた肺
荒れ地に辿り着いた瞬間、ましろを襲ったのは、シズコのものとは比べ物にならない「肺が凍り付くような重圧」だった。足元から、そして頭上から。自らの存在感すら霧散しそうな圧迫感が広がる。(ダメだ、ここにいてはいけない……!)本能に従い撤退するましろを、天井の影でチセイがニヤリと見送った。
- 袋小路
「戻れない……」
ましろは、部屋で頭を抱える。
石室にも、屋敷にも。
どこにも行けない。
- 無敵
海。
月。
静かすぎる。
「どう?」
「あう」
「良かった」
マリンは笑う。
「……明日、イケる気がする。今のアタイには、重力すらファンサしてくれてる感じがするのよね。」
その声は、軽やかだった。
ガスは、マリンの影を踏まなかった。
■第21話[後編]:灼熱の残響
- 52個の慈悲
袋小路の葛藤の末、ましろは「屋敷の孤独」を選んだ。どれほど凍てつく場所でも、あの不気味な石室よりはましだった。
「M4は寝てる」
「早いな」
男が言った。
「……来たか」
「逃げてくるのが精一杯でした」左右の目が合わない報告を、シズコは冷ややかに見下ろす。「……そいつは、ただそこに『いる』だけなのよ」
シズコが用意したのは、厳選された五十二個の、素朴な色から鮮やかな色彩までが入り混じった多様な意匠の菓子。逃げ場のない数だ。「こしらえておいたわ。残さず召し上がるのよ」
- 燃える熱量
一方、石室の底。マリンは真っ赤になって倒れていた。足には80キロの加重。タイマーは11分で止まっている。「あう……あうあうっ!」助け起こそうとしたマミの手が触れた瞬間、「ジュッ」と音を立てて爛れてしまった。
「……タイマーは?」
地上でガスが虚空を睨み、後ずさった。
- 現在のレベル:加重 80kg / 持続時間 11分 八十キロの期限まで ― 残り、10日。