二年目の「絶望」:限界突破への挑戦
[壁の傷ⅰⅱⅲⅳⅴⅵⅶ ⅷ ⅸⅹⅺⅻⅰ]
一年を乗り越えた祝いのムードはどこへやら。彼女を待っていたのは、過酷なトレーニングの「延長戦」だった。
「はぁ、はぁ…四十キロ突破で延長戦!? これ作った奴、性格悪すぎ!」
「まるで達人王の二周目並みの絶滅戦…!」
天井から見下ろすチセイは、罵倒されつつも満足げだ。
「強くなっても涙が出るんだから、女の子だもんって…こんな筋肉女、サンリオには無理ね!」
《四十キロの城壁》
片足二十キロ、合計四十キロ。この重さは、パピルスが生み出した「人外の筋力」でなければ到底不可能だ。
「えいえいおー!!」
倒立、百八十度開脚。三ヶ月間、血の滲むような思いで「五分」を耐え抜いた彼女だが、「十分」の壁は垂直な絶壁となって立ちはだかる。
(くっ、苦しい…ッ!!)
肺は圧迫され、腕は軋み、視界はチカチカと点滅する。もはや耐えられる限界を超え、時空さえ歪んでいるように感じる。
「…弱音くらい言わせて、あとチョコもちょうだい…甘いもの食べてガアと寝たい…」
床に滴る汗で、自分の顔さえ判別できないほどの極限状態。
《死神の誘いと、冷笑の残響》
意識が朦朧とする中、甘く冷たい誘いの声が響く。
『こっちへ来い、もう、十分だ』
「…誰? 死神…?」
『普通の女の子に戻れ、大きな夢はあるだろう…』
この言葉が、彼女の内に秘めた「火薬」に着火した。脳裏にフラッシュバックするのは、アンチの冷酷な書き込み。
『最近の加工、やりすぎw』『若返り整形?』『アイドルがバキバキって?』
(…この重さ、人生で一度でもあった?)
彼女は燃えるような瞳で死神を睨みつける。
「…でっけー夢? あるに決まってる、今、ここに」
《禁断の共鳴》
胸元に手を伸ばす彼女の行動に、チセイは驚愕する。
彼女はパピルスを心臓に近づけた。
「ふ~ん…噛んだときは弾いたのに、ここは拒まないのねぇ」
それは古い紙。しかし、紙というよりは、熱を持った生き物の皮のようだ。
青い光が彼女を縛る『鎖』のように見え、心臓と同期した瞬間、体温は氷点下から一気に沸騰する。
《人間を超える瞬間》
「…これでダメなら、負けでいい!」
再び、倒立、開脚。重さは変わらない。だが、感覚が違う。重みが彼女と「一体化」したのだ。
限界だった六分を過ぎると、時間は粘り気のある泥のように意識に絡みつく。一秒が一分に感じられ、振り払おうとしても重力が存在を削っていく。
八分を超え、タイマーがゼロへと向かう。
一分…三十秒…ゼロ。
「…っ!!」
やったっ…10分よっ…未来へ繋いだっ…
彼女は糸が切れたように床へ崩れ落ちた。体から立ち上る蒸気が汗を瞬時に蒸発させる。
朦朧とする意識の中で、車をスクラップにする自身の姿を幻視する。
『…マイク・ハガー…』
チセイは指の隙間から、静かに呟いた。
「魔力は意志の指向性だ。こいつが生身を供物としたのか。」
彼女が最後に呟いた名は、歴史上の英雄の名だろうか。
こうして宝鐘マリンは「肉体」を武器に、また一歩、遠くへと踏み出した。
- 現在のレベル
〈重さ 40キロ(二段階目)/時間 10分にレベルアップ〉
【第九話 終わり】