48日目 宇宙を呑み込むトランプと栗饅頭:巨大数に挑む父と子の対話

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1章【トランプの組み合わせの巻】

ノブオの父ミズエは、神学者で優れた人物だった。
そのためノブオは、どうしても出来が悪く見られてしまう。

「父上、この数字の後ろに小さく書かれている数字は何ですか?」
――10¹⁰

「それは指数関数と言ってな、その肩についた小さな数字の回数だけ、同じ数を掛け続けるという意味じゃ。
この場合は、10×10で1回、さらに×10で2回……という具合だ」

「それは、とても大きな数になりますね」

「うむ。大きな数を簡単に表すのに便利なのじゃ。
例えば、10という数を何度も掛けていくだけで、宇宙の規模に迫る数になる」

「えっ、宇宙の広さですか?指数関数ってそんなにすごいんですね」

「実はな、それよりもさらに巨大な数があるのだ」

「本当ですか?それは何ですか?」

「階乗と呼ばれておる。
例えばトランプ。52枚のカードは1組しかないが、並べ方はいくつあると思う?」

「うーん……6000くらいでしょうか?」

「全然桁が違うぞ。
約 8.07×10⁶⁷ 通りじゃ」

「何それ……全然わかりません」

「それも無理はない。この数を実感できる者はそう多くはおらん。
宇宙の原子の数が約10⁸⁰と言われておるが、それに近い規模だと思えばよい」

「どうしてそんなに大きくなるんですか?元は52枚なのに……」

「そこが階乗の爆発力なのだ。
今日、何気なく並べたそのトランプは、宇宙で初めての並びと言ってよい」


2章【誕生日のパラドックス】

「父上、誕生日のパラドックスをご存知ですか?」

「もちろん知っておる。
365日ある誕生日も、『23人いれば』誰かと誰かが一致する確率が半分を超える、という話だな」

「そうです。
それならトランプも、意外と早く同じ並びが出ることはありませんか?」

父は少し間を置いて答えた。

「良い視点だ。
だが、トランプの母数は比較にならん」

「仮に80億人が、毎日1回トランプを並べるとしよう。
それを2000年続けても、同じ並びに出会う確率は、ほぼゼロに近い」

「本当ですか……信じられない」


●ワンポイント『トランプの特別な組み合わせ』

Q
トランプをランダムに並べた場合、52! ≈ 8.07×10^67通りの組み合わせがあります。
しかし……スートをまとめて並べるという制約を設けた場合、どのくらいの組み合わせがあるのでしょうか?

4つのスートをそれぞれ一かたまりにする
例:♥13枚 → ♠13枚 → ♦13枚 → ♣13枚
ただし、スートの順番と各スート内の並びは自由として計算します。

約 3.6×10^40 通り

スートごとにまとまるだけでも、並びは約 3.6×10^40通りあります。
それだけ見れば途方もない数です。

しかし、トランプ52枚すべての並び、約 8.0×10^67通りから見ると、ほんの微小な一部に過ぎません。

ランダムにシャッフルし、偶然にスートごとに美しくまとまる確率は、約 2.2×10^27回に1回です。

したがって、全人類が毎日何度もシャッフルし続けても、一生のうちに出会える可能性はほとんどありません。


3章【栗饅頭】

「父上、ある漫画にこんな話がありました」

1つの栗饅頭を、5分ごとに倍にする薬。
1個が2個、2個が4個……と増えていく。

最初は喜んでいた少年も、やがて食べきれなくなり、こっそり捨ててしまう。
それをロボットに見つかり、叱られる。

「このままだとどうなると思う?」
「プールいっぱいくらいでしょうか?」

「一日で宇宙を埋め尽くす」

――ゾッとする話だった。

「指数関数でもこれだけ増えるのに、階乗はさらに大きい。
その違いがよく分かりません」

「では逆に聞こう。
栗饅頭がどれくらい倍になれば、トランプの組み合わせと同じくらいになると思う?」

「60回くらいでしょうか?」

「外れじゃ。約226回だ」

「2²²⁶で、だいたい52!と同じ規模になる」

「ひえぇ……226回……」


4章『巨大数を解く「比喩」の力』

お釈迦様は、かつて膨大な時間を表現するのに『五百塵点劫(ごひゃくじんてんごう)』という比喩を説かれました。

三千大千世界(宇宙)をすり潰して塵にし、東へ進んでは千の国ごとに一粒ずつ落としていく。その塵が尽きるまでの時間は、お釈迦様が悟りを開いてからの時間の長さを表しています。

この比喩を聞けば、数字に弱くても「なんだか凄い、気が遠くなる!」と直感できます。

もしお釈迦様が、「わしが悟りを開いたのは 10^10¹² ほど昔のことじゃ(※10¹² は一兆、それが10の肩に乗っている。)」とか、「トランプの全組み合わせの数ほど昔じゃ」と説法されたら、弟子たちは「ギャンブルの話ですか?」と腰を抜かしたに違いありません。

数字を物語に変える。それこそが、無限を理解するための唯一の鍵なのかもしれません。

お釈迦様は、2500年前にすでに『データ化不可能な無限』を語っていたのです」


最終章【継続】

トランプの世界に魅了されたノブオは、
独学で並びを覚える練習を始めた。

最初は一日かけても覚えられない。
ちなみに父ミズエは、5分で覚える。

そこまでは無理でも、せめて1時間。
それを目標にした。

そして1年後。
ノブオはついに、1時間を切ることができた。

ただし――

毎日52枚やっていたわけではない。
何もしない日もあったし、13枚だけの日もあった。

それでも、気づけばここまで来ていた。

目一杯やろうとすると、人は挫折する。
だが、少しでも続ける人は、遠くまで行く。


追記

ノブオは少し考えてから言った。

「父上……それでも、同じ並びにすることはできますよね?
覚えて、その通りに並べればいいのですから」

ミズエは静かにうなずいた。

「その通りじゃ。
『同じ並びは二度と出ない』というのは、あくまで偶然に任せた場合の話。
人が意図すれば、同じ並びはいくらでも再現できる」

「偶然の世界では同じものは、ほとんど現れない。
だが人間は、それを覚え、もう一度作ることができる」

さらなる問い、あなたも考えてみてください。

『偶然か必然か?』

Q
父上、さらに不思議な問いが生じました。
人間は宇宙から偶然に生まれたとしたら、モーツァルトの曲やドストエフスキーの物語も偶然に生まれたことになってしまいます。
なぜそうではないのか教えてください。

『人間は特別か?』

Q
チンパンジーが何万年も生きていても、ペンを持つまでの経験を積むことができるでしょうか?
偶然と人間を自然に結びつけるのが、そもそも不自然ではないでしょうか?
どんなに生命が誕生しても、チンパンジー程度の知能なら、曲や物語は存在しなかったはずです。
人間だったから、創造することが出来たのではないでしょうか?

#宇宙の原子数 #バイバイン #偶然と必然 #五百塵点劫

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